犬に吠えて、どんな人間にも吠えないマツ
私が小学生の頃、家に泥棒が入った。当時は、凶悪な強盗もいたが、子供のモノは盗まず、家族に危害を加えず、気づかれたら逃げる泥棒が多かった気がする。
父が午前3時頃に目が覚めて箪笥の方を見ると、男が立っていた。「おまえ、何をしているんだ!」と怒鳴ると、男は逃げ去った。
警察に電話し、パトカーが来た。中年の刑事さんが両親に、「鍵を開けるためのガラスの切り取り方とか手口が同じなので、最近連続している泥棒事件と犯人は同じですね」と話していた。当時の玄関は、ガラスの格子引戸が多かった。
近所の人たちが来て、隣の奥さんが、「マツがいるから、うちも安心だと思っていたのに、泥棒に吠えなかったのね」と言った。マツの小屋は、泥棒が侵入した玄関の傍だ。
父は「マツは、犬に吠えて、人間には吠えないんです」と、説明していた。
刑事さんはしゃがんで、マツの頭に手をおいて、「たくさんの家が被害にあっているプロの泥棒が入ったんだよ。あんたはプロの番犬になり、自分の家とご近所を守りなさいよ」と、説教をした。マツは頭をなぜられたと思い、嬉しくてシッポを振りまくっていた。
