思うようにいかずクサっていた時期もあったけど

子どもの頃から音楽は常に身近にありました。とくに大好きだったのがチャゲ&飛鳥です。あれは小学3年生の頃、クラスのなかでチャゲ役を探し、僕はといえば飛鳥担当。テンガロンハットをかぶらせた“チャゲ”と二人でラジカセを音楽室に持ち込み、クラスメイトたちの前でライブをして、盛り上がりました。

一方、音楽の先生からは合唱部へのお誘いが。女子ばかりのなか、男はボーイソプラノの僕ひとり。Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)にも出場したんですよ。そこでも歌う楽しさを覚えました。

ところが、高い音がいくらでも出せるボーイソプラノが自慢だったのに、中学生になって突然の声変わりにすっかり自信喪失。一時期、サッカーに逃げたりもしたのですが、バンドを組んでいた友人にボーカルとして誘われ、「また歌ってみよう」となったのです。

中学3年のときの文化祭でのライブでは、ボーカリストとしてステージで歌う心地よさに目覚め、この頃から、音楽を仕事にしたいと考えるようになりました。

とはいえ、プロデビューは大学を卒業したあとです。親に大学に行かせてもらった以上、卒業だけはしたかった。それに大学に通いながらアマチュアとして音楽活動はできるし、実際、デモテープをつくってレコード会社に送ったりもしていました。

心に秘めていた音楽の世界に進みたいという気持ちを、実際に両親に告げたのは大学4年のときです。同級生はみんな就職活動をしているというのに、僕は就活など何もしていない。親としては不安ですよね。「どうするの?」と父に聞かれ、初めて打ち明けました。

反対されるかと思いきや、「大変だと思うけど、やってみなさい」とひとこと。その後も、家族はほどよい距離感で応援してくれていて、そのスタンスはありがたいですね。

2008年に、バンド「Peaky SALT」のボーカルとしてメジャーデビュー。3年後に、ソロとしての活動を開始しました。そして10年以上が経とうとしています。

その間、思うようにいかずクサっていた時期もありました。バンドが活動休止になったり、ソロに移行するまでのあいだ、仕事がまったくなかったり。浮いたり沈んだりはあったけれど、歌うことをやめようと思ったことは一度もないですね。実際、どんな形でも歌い続けてきたのです。

ソロデビューしてからは、全国の大型ショッピングモールで、無料ライブを続けました。ボーカルの僕とギタリストの二人だけで行う弾き語りのミニライブは、握手会をしてCDも売るというものです。

買い物が目的で来ている人に、目を向けてもらわなきゃいけない。エスカレーターで上がっていく人にも呼びかけましたよ(笑)。そんなふうにしながら人を振り向かせ、歌に引き込んでいくことがだんだん楽しくなってきて。このミニライブはわりと最近までやっていました。のべ300回くらいでしょうか。場数を踏んだおかげで、度胸もついたように思います。