最近はどんどん漢字を忘れるので、頭の中で源氏のタイトルの書き取りもやっています。そんなことをしていると、よけい目が冴えてしまう夜もあれば、気づいたらコトンと眠っていることも。寝られなくても寝落ちしても、気にしない。どちらでもいいじゃないですか。

原稿を書くのは昼間。ただ、情けないことに、最近は字がうまく書けないんですよ。漢字を忘れるのはザラにあることだけど、指先の力がなくなってきたので、字そのものがおかしくなる。

たとえば「杉」。以前は意識しなくても右の3本をすっと書けたのに、今は1本目と2本目が平行にならなかったり、長さがバラバラになったり。読みにくくて編集者にも迷惑をかけていますが、仕方ない。書く約束をした以上、書かねばなりませんから。

昨年は『90歳、男のひとり暮らし』という本を上梓しました。この歳になると、いろいろ衰えもあるし、バカなことをやったりもする。そんなおのれの姿を物書きの自分が眺めて、ひとり笑いなんかしながら書いた感じです。

ただ、ちょっと世の中に裸の姿を見せすぎたかな(笑)。小説には、必ずどこかで「自分」が投影されている。それで充分と思っていたので、今まではあえて私的なことはあまり書かないできたんです。

それに妻がいたら、「台所のことまで書いたり写真を撮られたりすることないでしょう」と言われそうでしたが、今や何をやっても誰も文句を言わないですから。