あんまり根を詰めなさんな

遺品整理をしていることをテレビ番組で取り上げていただいた折、実家を民泊として活用するという方法もあると知りました。それを聞き、母が「オリンピックの期間中に、家を外国からみえる方のためのB&B(Bed and Breakfast=小規模な宿泊施設)として使うのもいいね」と話していたことを思い出したのです。

私がアメリカ代表としてアトランタ五輪に出場したとき、母が応援に来ました。そのとき現地の方がボランティアの一環として選手の家族の宿泊用に住まいを提供してくださり、母はそこにお世話になりながら、私の応援をすることができた。それに非常に感動したと。そこから生まれた発想でした。

このことが頭の片隅にずっとあったのです。ある日、かつて母と出かけたショールームにふらりと立ち寄ると、母が気に入っていたバスタブが展示品として格安で売られていた。これは母のGOサインかなと受け止め、250万円ほどかけて水回りを中心にリフォームし、リビングの天井も修理して、エアコンを新調しました。

そこからさらに畳を総取り換えし、襖も母の好きなコスモス柄に貼り替え。バレーボール関連の記事やトロフィーなどをまとめた展示部屋もほぼ完成したので、今後は母の遺したお琴や着物を利用して、日本の文化を伝えることのできる空間にしたいなと構想しています。

海外に暮らす知人が来日したときのゲストハウスとして活用できたらいいですね。新型コロナウイルスの影響で自粛生活を余儀なくされましたが、すべての仕事がストップした今は、一人で黙々と片づけをするためのチャンスと前向きにとらえることにしました。淡々と片づけをしながら、ずいぶん心の整理ができたように感じています。

やると決めたら、集中力にはとにかく自信があるので、今、片づけたくて仕方ない。母がそんな私にいつも言っていた、「あんまり根を詰めなさんなよ」という声が聞こえてきそうなのですけれど。(笑)

母の人生が幕を下ろし、残された私がその後片づけをしているのだと思っているうちは悲しくて仕方がなかった。でも今は、母が生きた軌跡は形を変えて永遠に息づいていくのだととらえています。母と積み重ねた幸せな時間を糧に、しっかりと歩んで行く覚悟です。