音楽の可能性を信じている
――年を重ねて失ったものはありますか?
正直なところ、いつまで歌っていられるかなと考えてます。ギリギリまで音楽をやれるといいなとは思うのですが、ギリギリってどこなの? というのが問題で……。僕らの仕事って同情されたら終わり。「こんなお爺ちゃんが頑張って歌っている」と思われたらアウト。「自分以外にこれができるアーティストはいないだろう」と言えるパワーがないとステージに立ってはいけないというか、怖くてステージに上がれません。だってお金をいただいているのですから。しかも僕の場合、喋って歌っての一人ミュージカルですからね。(笑)
最早ヒット曲が欲しいという気持ちはありません。これまでだってヒット曲を作るぞと思って歌作りをしたことは一度もないんです。ただひたすらに自分の音楽を高みに登らせ、お客さんに納得して受け入れてほしいという一心で走り続けてきました。コンサートも、どれだけお客さんに喜んでいただけるかが僕のテーマなのですが、つくづく厳しい世界だなと感じます。チケット代が1万円のコンサートなら、最低1万5000円相当のステージをやらないと次から来てくれませんから。
若い頃はもっともっととクオリティを高めることに努めていましたが、高めたクオリティを保ち続けることの大変さと言ったら……。放っておいたら体力や気力は低下していく一方なのに、そこをググっと底上げして現状維持しているというのは、たとえて言えば、エスカレーターを逆走しているようなもので、疲れないはずがない。歳を取ればあたりまえのことですけどね。
――年を重ねて得たものはありますか?
これが人生の味わい深いところで、年を重ね、経験を積み重ねてきたからこそできることや上手くなることもあるんですよ。今回のアルバムができた時も、まだまだできるじゃないかと自分を褒めました。『お終活3―』の主題歌をどうしようと思っていたらビッグバンドという発想が降りてきた。そうか、この手が自分の中にあったかと嬉しかったのですが、長く音楽を続けてきたからこそ引き出しが増えていて、まだやっていないサウンドにたどり着くことができたのだと、大きな自信につながりました。
僕は音楽の可能性を信じています。神さまからテーマを受け取って歌を作ってはみたものの、芯がズレていたりして、とんでもないものにしたといった反省を繰り返してきました。ところが試行錯誤もちゃんと肥やしになっていて、思い描いたビジョンを上手く形にする力を備えたのを感じます。
さらにここへきて、映画作品とのコラボという試みが新たな扉を開いてくれました。僕がまだやっていなかったことを引き出してくれたのです。しかも表題作に続いて次々と。だから今回のアルバムは面白いですよ。今までにない10通りの僕、10通りの音楽を並べていますから。これもさだまさし、これもそうなの? と驚きつつ、楽しんでいただけると思います。