医師は余命を長めに伝える傾向がある、という研究成果が報告されている。これは、患者さんに希望を失わせたくない、ショックを与えたくない、といった理由があるからとされている。

それに、医学生時代以来の長い間、死は医学にとって敗北である、という考えが染み込んでいるといったこともあるだろう。また、所詮、予測は不確実なのだから、多少は長めに伝えても誤りではないということもあるかもしれない。結局は、医者も人の子、といったところだろうか。

余命の推定には、統計的な平均値よりも中央値がよく使われる。平均値というのは、ある集団の患者さんがどれくらい生きられたかの期間の合計を頭数で割ったものだ。それに対して、中央値は、生存期間を短い順(長い順でもかまいませんが)に並べた時、ちょうど真ん中に位置する人の値である。

少数であっても例外的な長期生存者がいた場合、平均値は大きく引き上げられる。しかし、中央値ではそのようなことがなく、その集団の中心的な期間が示されることになる。なので、中央値の使われることが多い。

がんの種類によっては、中央値と平均値はしばしば大きく異なってくる。長期生存という「はずれ値」があった場合、平均値が大きくなってしまうからだ。そのような場合、平均値だと希望的になりすぎてしまう可能性がある。

なので、はずれ値にあまり左右されないように「中央値はX年Xヶ月ですが、個人によって前後します」というような言い方が妥当なのである。

 

※本稿は、『がんは運である? 自分事として向き合うための手控え帖』(仲野徹:著/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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