最近、動画サイトで昭和の古いコマーシャルやドキュメンタリーを見てばかりいるというマリさん。なぜ、その時代に惹かれてしまうかというと――(文:ヤマザキマリ 撮影:山崎デルス)

後ろを振り返る必要

人生は前向きでなければならない。前さえ向いて進めばかならずそこには明るい未来がある。私たちは、子供の頃から、そうした《前向き》に対する信念のようなものを抱きながら生きている。

1964年の東京オリンピックで活躍したマラソンの円谷幸吉選手は、父親から「決して後ろを振り返るな、前だけを見ろ」と言われ続けてきたという。小説家の魯迅が残した「後ろを振り向く必要はない。あなたの前にはいくらでも道がある」という言葉に励まされた人たちも少なくないだろう。

ただ、たまには立ち止まって過去を振り返り、私たち人間がこれまでにやってきたこと、残してきたことに目を向けるのも決して悪いことではない。前に進むばかりが人間の成熟や進化を意味するわけではないし、歴史を顧みればそこには今を生きぬくためのヒントや答えが溢れている。

いにしえの文化が今でも人々に感動を与えるように、過ぎ去った時間を振り返ることが明日を生きる力になることもある。