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 夜のほとんどを霧の半纏の前で過ごすようになった。
 霧のことを思い出し、麻子のことを思い出し、そして死んだ最初の夫のことも思い出す。
 不思議だ。霧に出会うまで、最初の夫のことを思い出すことはほとんどなかった。すっかり記憶の外だったのだ。それでなんの不都合も感じなかった。
 なのに、霧と出会ってからは、はじめての恋人であり男であり夫でもある律夫のことをよく考えるようになった。
 あのときどうすればよかったのだろう。私は今でもずっと考えている。もっと夫のことを気遣うべきだったか。もっと頑張って働いて夫を支えるべきだったか。それとも、両親や蘭の言うとおり子供を諦めるべきだったのか。生活が軌道に乗ってから産むべきだったのか。あのとき子供を堕ろせばよかったのか。
 中絶はあり得ない。絶対にあり得なかった。今でもはっきり言える。でも、結局、夫も麻子も幸せになることができなかった。私の決断は苦しみをもたらしただけ、つまり間違っていたということなのか。
「霧さん。私は酷い妻で酷い母だった。結果が証明しているの」
 なにを言っても今さらだ。誰も帰らない。