「よろしく……お願いします」
麻子ちゃんは真っ青な顔でみなに挨拶をした。
「よろしく。気楽にしてください。俺たちはみんな素人なんですよ。演劇経験のある麻子さんが来てくれて頼もしく思ってるんです」
「え、いえ……」
消え入りそうな声で言う。そのとき、思いついた。はじめて木綿子が蔵に来た日、試飲をしてもらった。すると、緊張が解けて話が弾んだのだ。
「練習前に、まずは舞台の成功を祈って乾杯しましょう」
試飲用の小さなグラスに蓬命酒を注いで配った。麻子ちゃんにも配る。
「アルコール大丈夫ですか?」
「……すこしなら」
「どうぞ」
グラスを手渡す。受け取る麻子ちゃんの手は震えていた。
俺の発声で乾杯をした。麻子ちゃんは一息で飲み干した。すると、木綿子と同じように頬に赤みが差した。強張っていた表情が緩んでいくのがわかる。
俺はほっとして、横目で木綿子を見た。木綿子も安堵したようで、俺が見ているのに気付くと軽く頭を下げた。
蓬命酒の乾杯は効いた。麻子ちゃんはリラックスしたようで、しっかりした声で自己紹介をし、練習に入ってからも抜群に集中して本を読み上げた。驚くほどの表現力だった。
喫茶店のマスターがこっそり俺に耳打ちする。
「最初、どうなるかと思たけど、あの子、やるやん」
「ええ。凄いでしょう?」
褒められるとまるで自分のことのように嬉しかった。
