「麻子がずっと霧さんの話をしているんです」
「僕の?」
「ええ。まともな男の人と出会えたのがよほど嬉しかったみたいで。あの子は小さい頃に父親を亡くしたのでかわいがられた記憶がないんです。祖父は毎日怒鳴ってる。就職したら酷いパワハラに遭って鬱になった。だから、霧さんみたいに優しい大人の男の人に接するのは本当にはじめてなんですよ」
「そうか。なるほど……」
「どうかしたんですか?」
「麻子ちゃんから御礼のメールをもらって返信したら、そのあともちょくちょくメールが来るようになって。木綿子さんの血かな? 結構詩的だよ。小説家になればいいと思うくらい」
「すみません、ご迷惑をお掛けして……」
「いえ、いいですよ。誰かとつながっている、っていう安心感は大事でしょう。返事を出すくらいで役に立てるなら」
「ありがとうございます。たしかに霧さんに安心感を持ってるんでしょう。最近よく食べてくれるようになったんです。引きこもっていた頃は拒食症にならないかって心配したくらいなのに」
「それはよかった」
木綿子が娘に深い愛情を注いでいることがひしひしと伝わってくる。俺もかつてはそうだった。
息子が生まれたときどんなに嬉しかっただろう。お互い、夫婦の関係が破綻しつつあることに気付きながら、それでもなんとか赤ん坊に望みを託した。この子がいれば上手くやっていけるだろう。この子さえいれば二人とも努力を続けていける。赤ん坊は世界を救ってくれる勇者だ。俺たちは新しい勇者パーティとして冒険を続けていけるのだ、と。
