練習の回数を重ねるたびに麻子ちゃんは元気になっていった。木綿子の付き添い無しでも来られるようになり、すっかり俺とも打ち解けた。「霧さん、霧さん」と呼んでくれるようになり、稽古場の設営なども手伝ってくれた。彼女が日に日に元気になっていく様子はとても嬉しかった。
朗読劇上演の当日、蔵の中に小さな舞台を作った。椅子は三十席ほどだったが、なんとか埋まってほっとした。劇は石上露子の生涯をナレーションでたどりながら、彼女の詩や歌を朗読する場面がほとんどだ。麻子ちゃんの声はよく通って、蔵の高い天井と太い梁に響いた。
無事に終わってみなが拍手をしてくれたとき、麻子ちゃんは陶然とした表情だった。感極まって木綿子が泣き出したのとは対照的だった。
「霧さん、どうでしたか?」
「素晴らしかった。大成功だよ。ありがとう」
「いえ……霧さんのおかげです」
まだ呆然としている麻子ちゃんを木綿子の許へ連れて行く。木綿子が麻子ちゃんの手を握りしめた途端、麻子ちゃんが泣き出した。
「……お母さん。私……ちゃんとできた……」
「ええ、ちゃんとできた。麻子、よく頑張ったね」
母子は互いに手を握り合って泣いた。なにも知らない連中が見れば、なにを大げさな、と思うかもしれない。だが、今日ここに至るまでを知っている俺は思わずもらい泣きしそうになった。
麻子ちゃんが俺の前に立った。潤んだ眼は輝いていた。
「霧さん。私、もっとやってみたいんです。本格的に石上露子の脚本を書いてみたい」
「それはいい。面白そうだ。僕も応援するよ」
麻子ちゃんの後ろで木綿子がまた感極まって涙をこぼした。
なにもかも上手くいった、と思った。
