俺は黄泉の国に流れる川にいる白鳥か。
 麻子ちゃんから届いたメールを読み終え、むずがゆいような、だが、どこか陶酔した感情がわき上がってくることに気付いた。
 ネットに上がっている「トゥオネラの白鳥」を聴いてみた。美しいが陰鬱な曲だった。眼を閉じ、暗い旋律が身体に染み通っていくのを感じる。重く苦しく、ときどき鋭い痛みを伴う黒々とした氷の塊のようだが、なぜか安心していた。罰せられる喜びだ。だが、それは一番タチの悪い逃避であることも知っていた。
 暗い川の上に浮かぶ一羽の孤独な白鳥。もう美しくはない。羽は毛羽立ち、薄汚れて艶を喪い、老いているのがわかる。
 ふいに水面に波が立った。遠くから一羽の白鳥が近づいてくる。やはり老いた白鳥だ。二羽はぴたりと寄り添い、暗い川を漂い続ける――。
 俺はこんなに感傷的な人間だったのか。さすがに自分の妄想が恥ずかしくなって、頭を掻いた。さて、どんな返事を出せばいいのだろう。なんとも書きづらい。
 だが、麻子ちゃんの力になる、と木綿子と約束した。俺は頭をひねって返信を書いた。何度も書き直し、結局すこしだけ詩的な文章に落ち着いた。