――メールをありがとう。「トゥオネラの白鳥」を聴いてみました。美しい曲ですね。心の一番深いところに、メロディが川のように流れていきます。
いつでも蔵に遊びに来て下さい。石上露子の脚本、楽しみにしています。
ごく短い返信だったのに、書き終えるとどっと疲れた。
翌日の午後、麻子ちゃんが蔵に現れた。昨日メールを送ったところだ。いきなり現れるとは思わなかった。
「麻子ちゃん、いらっしゃい」
「はい。早速遊びに来ました。今日は取材をしようと思って」
「取材なら案内するよ。瀬良がもうすぐ帰って来るから、そうしたら一緒に行こうか」
「いいんですか。お仕事の邪魔では……?」
「そろそろ隠居しようと思ってるから。若夫婦に任せて大丈夫だよ」
「隠居だなんて。霧さんはそんな歳じゃないです。お若いです」
「僕はもうすぐ還暦だよ」
「そんなふうに見えません」
ムキになって否定してくるのですこし戸惑った。俺は若いと言われて喜ぶような気持ちにはならない。見た目の若さなど求めてはいない。木綿子がお世辞にも若くは見えないように、俺たちは二人とも歳相応の見た目をしている。俺が一番嬉しいのは「木綿子と釣り合うこと」だ。
そこへ瀬良が帰ってきた。麻子ちゃんを見て驚いた顔をする。
「脚本の取材で来られたんだ。ちょっと案内してくる。剣人は奥にいる。店番頼むよ」
「わかった。行ってらっしゃい」
瀬良の表情がかすかに曇った。最近遊びすぎだな、と申し訳なくなる。
