二人で寺内町を歩いた。麻子ちゃんはあちこちで写真を撮りまくった。歩き疲れて、また蔵へ戻ってきた。瀬良と店番を交代する。
「木綿子さんは今日はお仕事?」
「いえ、家にいます。今日新しいヘルパーさんが来るので、上手くやれるかどうか、付き添ってるんです。……祖父はいろいろ難しい人なので、ヘルパーさんが続かないことが多いんです」
途端に麻子ちゃんの声が沈んだ。
「それは辛いね。いろいろ大変だ、というのは木綿子さんから聞いているよ。麻子ちゃんもずっと頑張ってる、って」
「……ヘルパーさんなら辞められるけど、家族は辞められないので」
「部外者の僕に言えることではないが……本当に大変なんだろうな。君と木綿子さんのご苦労に頭が下がるよ」
「いえ。私はなにも役に立ってません。それどころか母に負担を掛けてばかりで」
「そんなことはない。君に迷惑を掛けていることを、木綿子さんはいつも気にしているし、君が手伝ってくれることに感謝している」
「でも、私、本当に駄目なんです。祖父の怒鳴り声を聞くと身体がすくんでしまうんです。……母を助けに行かなければ。母を庇(かば)って、すこしでも手伝ってあげなければ。でも、できない。怖ろしくて部屋を出られない。ごめん、お母さん。こんな情けない娘でごめんなさい、って」
俺は黙って麻子ちゃんの話を聞いていた。木綿子は介護の詳細を話さなかった。だが、想像以上に悲惨な日々を送っていた。胃がきりきりと痛むような気がした。
出典=WEBオリジナル
遠田潤子
作家
1966年大阪府生まれ。関西大学文学部独逸文学科卒業。2009年『月桃夜』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10』第1位、『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位に輝く。『冬雷』で第1回未来屋小説大賞、25年『ミナミの春』で山田風太郎賞を受賞。他の著書に『銀花の蔵』『イオカステの揺籃』『天上の火焔』などがある。
