足を拡げても閉じても、腰を浮かせても、うつ伏せても、私の中にずっと霧がいる。気持ち良くなんかない。なのに、私は霧にしがみついて離れたくないと思っている。痛いから早く終わってと思いながら、ずっと私の中にいてほしいと願っているのだ。抜かないで、もっともっと私の中で膨らんで、大きくなって、ほんのわずかの隙間もないくらい私を埋め尽くして。そして、お願いだから私の中から出ていかないで。ずっとずっと私の中に入っていて。痛みに顔を歪めながらも、身体が勝手に霧を留めようとする。私は完全におかしくなっている――。
 霧のものが私から出ていったとき、ほっとしたのと同時に大きな喪失感を覚えた。下半身に力が入らず、ベッドに横たわっていた。
 霧は私を抱き寄せて、私の指にキスをした。
「荒れた手が恥ずかしい。父の介護をしていると、一日中消毒と手洗いをしてるから」
「同じだ」
 霧が自分の手を示した。すんなり指が長くて綺麗だ。その美しさはどこか古い扇子の骨を思わせる。
「昔、杜氏の手は綺麗だと聞いたことがありますが」
「あれは嘘だ。最近の蔵は衛生管理が徹底している。コロナのこともあったし、なにをするにも消毒、消毒だ」
「嘘なんですか? ちょっと安心」
「俺も安心してる」
 どきりとした。今、霧は自分のことを「俺」と言った。これまではずっと「僕」だったのに。でも、なにも気付かなかったふりをして会話を続けた。 
「そう。よかった」
 霧は私の乾いた手を取って、再びキスをした。シミだらけのみっともない手だ。やっぱり恥ずかしくて引っ込めようとしたが、離してもらえなかった。