「聞いてほしいことがある。俺は以前結婚していて……生まれた長男を一歳で喪った。その後、妻とはうまくいかなくなって離婚した。長男の墓は東京にあって……毎年命日には墓参りをしている」
霧は息子を亡くしているのか。瞬間、私は四十年近く前に死産したことを思い出した。あのときの底無しの絶望が甦って胸が鋭く痛んで、思わず霧の手を強く握りしめた。
「妻は俺の親友の妹だった。親友とは高校の頃からずっとペアを組んでいた。本当にいいやつだったが死んだ」
霧が枕に頭を落とし、小さな息を吐いた。
霧の手はほんの微かだけれども震えていた。私の手よりもずっと冷たくずっと乾いて、扇子の骨どころかまるで野晒しの骨のようだった。
「じゃあ、霧さんはもう何十年もずっと寂しいままだったんですね」
霧の手がぴくりと跳ねた。手を解(ほど)こうとしたので、私は強くつなぎ直した。霧は諦めて、再び私と手をつないだ。
「ああ、そうだ。ずっと寂しいままだったらしい」
「らしい?」
「自分では寂しいと感じたことがなかったんだ。日々の暮らしに不満を感じたことはなかった。それが当たり前だと思っていた。でも、君に出会って、自分が寂しかったことに気付いた。……君は本当に酷いことをする。君に会わなければ気付かないまま死んでいけただろうに」
冗談めかして、でも淡々とした口調で責めてきた。
