退団を経験してわかったこと
タカラジェンヌは、日々ものすごい緊張感の中で生きています。
常に誰かと比べられ、高みを目指すための終わりのないプレッシャーと、自分自身と戦いながら舞台に立っています。
向上心があるからこそ人は磨かれていくのですが、知らず知らずのうちに「戦闘モード」にもなっています。
そんな中で、退団を決めた人だけが、ある瞬間から少しずつ変わり始めます。
顔つきが変わる。
纏っている空気が変わる。
そして、神々しいほどの輝きを放ち始める。
あの独特の、発光するような美しさはいったいどこから来るのだろう?
ずっと不思議に思っていました。
そして自分が退団を経験して、少しわかったような気がします。
退団を決めるというのは、終わりを受け入れることです。
でもそれは、諦めではありません。
むしろ逆です。
ゴールが定まったとき、人はようやく「今」を全力で生き始め、一瞬一瞬をそれまで以上に大切にし始めます。
舞台からの景色をあと何回見られるのか。
この限られた時間の中で、自分は何を残せるのか。
そう思いながら舞台に立つと、その瞬間、瞬間を全霊で生きるようになります。
すべての迷いや気負いは削ぎ落とされ、それまで「未来」に向かっていたエネルギーが、すべて「今、この瞬間」に凝縮されます。
だから、退団者はこれまで以上に輝きを増すのだと思います。
そこには覚悟を決めた人だけが持つ、静かな強さがありました。
そしてもう一つ。
自分の足でその一歩を踏み出した瞬間から、これまで以上に自分がどれほど愛され、素晴らしい場所にいたのかを知ることになります。
当たり前だと思っていた日常の中に、どれだけ多くの愛があったかを知る時間が始まるのです。
退団者のために用意される様々なイベント。
かけられる言葉。
涙を流してくださるお客様。
あれは本当に、特別な時間です。
人生であんなふうに、「あなたに出会えてよかった」と真っ直ぐに伝えてもらえる経験をする人は、そう多くはありません。
もちろん、寂しさはあります。
でも、それ以上にありがたい。
その「ありがたさ」に包まれるからこそ、人はあんなにもやわらかい表情になるのだと思います。
