土木の現場で働きたいすべての女性に働く権利を

今回須田さんを取材した大きな目的が、彼女がライフワークにしている「女性技能者の坑内労働に関わる労働規制」の緩和や課題解決を求める活動について話を聞かせていただきたいと思ったからだ。

1947年に制定された労働基準法によって「使用者は、満18歳に満たないもの又は女子を坑内で労働させてはならない」とされた。坑内とは鉱山(炭鉱、金属鉱山)やトンネル、地下鉄、水路などの地表に出ない場所をいう。そうした場所での作業は過酷であり、「弱者保護」の観点から女性や18歳未満の労働を全面禁止にする規制が設けられた。

坑内労働の資料
須田さんが昔の炭鉱労働について調べた資料

しかし時代が変わり、坑内の作業環境が改善され、男女の平等促進ということから、2006年に規制の緩和が図られ、技術上の監理・指導監督の業務を女性技術者(現場監督や測量技術者など)が行うことは認められた。しかし、現場で実際に作業を行う女性技能者が坑内作業を行うことは現在も禁止されたままだという。

「この問題に気がつくことができたのは、2007年から10年間、現場で仕事をする中でさまざまな雇用形態で仕事をする女性技能者たちと繋がることができたからです。女性技能者の坑内労働禁止は80年も続いていて、そこで自分の技能を試したい、役立てたいとする女性たちの権利を奪っているのです。この規制ができる前までは坑内労働の4分の1が女性で、稼ぎ頭としてバリバリ働いていた実態がありました」

「全国各地のトンネル工事に関わった鉄筋工や型枠工やコンクリート圧送工の女性たちから、〈規制によって坑内では作業ができなくて悔しい思いをしている〉という声をたくさん聞きました。一方で、女性に危ないことはさせられないという声もあります。しかし、現在は安全衛生面の法整備が進み、そこに性別は関係ありません」

インタビューに答える須田久美子さん
「〈規制によって坑内では作業ができなくて悔しい思いをしている〉という声をたくさん聞きました」

考えてみればその通りだ。危険だから作業させられないというならば、それは男性も同じこと。女性だけに限定しているのは、働きたい女性技能者たちの権利を奪うことになる。また、雇用主にとっても厄介な規制だと須田さんは言う。

「坑外では女性鉄筋工が作業できる。丁寧で腕がいいから、できればそのまま坑内もやってもらいたいのに法規制があるからさせられない。全くもったいない話だ。坑外も坑内も同じ仕事だからそのままできればスムーズなのに、中には入れないから、途中からは男性技能者に交代しなければならないので引継ぎが必要。こんな規制さえなければその手間が省けるのです」

さまざまな課題を抱える建設業界で働く女性たち。彼女らの労働規制の緩和や課題解決を求める活動を粘り強く進める中、2018年、建設産業女性活躍推進ネットワーク(2020年に建設産業女性定着支援ネットワークに改称)が設立された。それによって、国に建設業界で働く女性たちの生の声を直接届ける仕組みが出来上がり、須田さんは幹事長に就任。2026年3月19日現在、登録団体63団体、構成人数は約1万人。都道府県単位で活動する団体は45団体(39都府県)あるといい、全国の仲間たちと共に声をあげている。

「鉄筋」をモチーフにしたゴールドのストラップ
須田さんが上司から贈られたペンダント。鹿島建設が手がけている特殊な部品をモチーフにしている

「女性だから大変だったことですか?女性だからではなく、1人の土木技術者として仕事をしてきましたのであまりないです。得したことは、現場ですぐ覚えてもらえることですかね(笑)。あとは会議などで議論が白熱する場面でも私がいるとなんとなく収まるとか。私たちの仕事は、現場の方にやってもらいたい仕事をいかにきちんと、上手にお願いするか、でもあるので、人間的な力が必要だと思います」