忘れられないこと
入門当時、もう1つ忘れられないことがあるの。それはおかみさんのこと。香葉子さんという人はとにかく面倒見がいいのよ。
僕が弟子になった昭和39(1964)年。この年、師匠の後輩の4人が次々と同時期に子供を授かったの。僕が弟子に入った直後だから10月のことだね。そうしたらおかみさん、僕を含めたほかの弟子たちに「4人みんなのところに、すぐにお祝いを届けろ」って言うの。
お金だけじゃないのよ。ご飯とかすぐに食べられるおかずもいっぱい添えて。それと、赤ちゃんの衣装?っていうか、おくるみから何から着るもの一式もよ。
それで僕は鶯谷駅の近くの病院へ行くことになった。今でも覚えてる。円平さんっていう師匠の弟弟子みたいな人で、なんと円平さん、大きい病院の前に七輪を置いて秋刀魚を焼いていたのよ。
頭に手拭いを巻いて秋刀魚を焼いているって、そりゃあ、もう強烈な印象だよね。「お前、なんだっ?」って言うから「三平の弟子です。おかみさんに頼まれて」って言うと、「あ、そう。ありがとね」って。