あいつどこ行くんだ?

午前9時21分。マリナー1号は、打ち上げ用ロケットの咆哮に励まされながら、地球をあとにした。滑り出しは完璧だった。

ぐんぐんと高度を増すにつれ、科学者たちの期待も高まっていく。

『世界を変えた「凡ミス」図鑑:昔の人たち、やらかしすぎ!』(著:近藤仁美/三笠書房)

発射から3分半ほど経ったとき、地上からの電波誘導システムに一時的な不具合が発生した。とはいえ、そんなことは対策済みだ。バックアップの自動操縦システムが作動し、問題なく進んでいけるはず……だった。

「おい、あいつどこ行くんだ?」

科学者たちがざわめいた。

マリナー1号は急にふらつきはじめ、金星でなく、あろうことか地球側に旋回したのだ。そして、勇敢な水夫よろしく、大西洋に向かって突進した。

海に落ちればまだしも、もし人が住む地域に落ちたら……?

NASAの判断は速かった。不具合が出てからものの81秒で決断し、丹精込めた探査船に自爆指示を送った。こうして、晴れた空に1850万ドル、日本円にして約66億円の花火が散った。

バラバラになったマリナー1号の機体は、たちまち夏の海にダイブした。