母の頭の中に、私はいるのでしょうか
名前は単なる記号です。
認知症になると、それぞれのデータを引き出すスピードが落ちたり、どの引き出しに何を入れたのか混乱したり、情報と情報をつなげる紐が緩んでしまったりして、名前や顔を忘れてしまったように思われてしまう。
「あなたのお顔も、名前も、あなたとの思い出も、あなたのキャリアも、娘として誇りに思う気持ちも、お母さんの記憶の引き出しには全部、ちゃんと入っています。ただ、それらの“つなぎ”が悪くなっているんです」
そう伝えると、娘さんははっとした様子で、こう言いました。
「そういえば先日、母が『あなたってなんだか知らないけれど、頼りになるのよ、またきてね』って、ぎゅっと腕を掴んできたんです。母の頭の中に、私はいる、ということでしょうか」
間違いなく、あなたはいます。