このとき私は、初心者だから仕方ないと思っていたのだ。ところが後日、乗馬体験に来た若者が難なくスロープを下っていくではないか。
「なんで……」
入会するまで、乗馬は簡単だと思っていた。老若男女誰でも楽しめるスポーツと銘打っているし、テレビでは俳優が楽々と乗りこなしている。運動音痴ではないという自負もあり、2年もすれば障害のバーを跳んでいるだろうと、未来の自分の姿を想像してもいた。
ところがとんでもない。馬は繊細で賢い。乗っただけで騎乗者の技量を見抜く。下手な乗り手ならやる気をなくしてサボるし、無視だってする……やりたい放題だ。下手な私は猫なで声でゴマをする。そうするとますます馬が「お馬様」に変貌していく。
クラブでは騎乗技術が上がると、それに応じた馬に乗り替わっていくのに、私は何年経っても初心者向けの老馬とタッグを組まされる。かといって、バリバリの若いハッスル馬には怖くて乗れないのだが。
気がつけば後から入会してきた会員にことごとく抜かれていた。最近まで私の後ろをよろよろついてきていた新人が、久しぶりに会うと颯爽と自在に馬場を駆けているのだ。私もそうなりたいが、お馬様のその日の気分次第というレベルに甘んじている。
先日も、馬がやっと駆け出してくれたので、一心不乱に乗っていると、コーチが「踵を下げて、鐙あぶみを踏んで」と指示を出す。私は「駆けるのに精一杯で、そこまでできませーん」と嘆き、コーナーで曲がれと言われたのに、「あー、曲がれません」と直進してしまう。
こんな私も乗馬を始めて今年で12年になった。自慢できる技量ではないが、そろそろ障害バーを跳ぶお許しが欲しい。年始に私の希望をクラブ長に言ってみると、返ってきたのは「それ怖いわ」だった。実際に怖い思いをするのは私なのに、跳ぶ私を見るのが怖いらしい。
クラブで2番目の古株であるにもかかわらず、コーチ陣はレッスン中の私をハラハラして見ているのか。そんな目で周りを見ると、何やら馬たちも私をからかいつつ、落とさないように乗せてくれている気がした。
理想の姿までは遠いようだが、元気なうちは、乗馬を続けていきたい。