ぬいの会話を実況だ!
大体、ぬいさんとの会話は以下に書くような感じで起こります。(最初にしゃべったのはカピバラさん一匹だけだったのですが、そのあと、カピズ――これは、カピバラ複数形。うちでは、カピさん達を、纏めてこう呼んでます。ちなみに、すべてのぬいさんが、同じ原則で名前をつけられているので……うちでは、わにが団体になった時はわにズだし、熊が団体になったら熊ズと呼ばれています――が、もう、しゃべるしゃべる。しかも、本当に勝手にしゃべりまくるので、もはや、発言したのが誰なんだか、特定できるような状況ではなくなっています。)
まず。TVが言います。(というか、ドラマの中の俳優さんが言う。)
「犯人は、誰々です(これは、そのドラマ内における奥様)」
これ、見ている私にしてみれば、まあそうだろうなあって思っていたことだったのですが……カピバラ達にしてみたら、ほんとに驚天動地の事実だったみたいで。
「え……犯人は、奥様?……つまりは……妻?」
ここまではいいんです。でも、ここから先が、大問題。
「ということは……犯人、素子さん?」
……え。違うんですけれど。何でいきなり、ミステリドラマの犯人を、我が家の中で特定してしまうのだ。
「そっかあ、旦那を殺したのは素子さんなんだ」
いや、違う! いや、その、このドラマの中では、確かに旦那を殺しているのは妻なんだけれど、でも、現実として、うちの旦那は殺されていないし、ましてやその人を殺したのは私ではない。
「あの……私は、旦那、殺してないってば」
「けど、旦那を殺したのは素子さんだってTVは言ってる」
「いや、旦那を殺したのは〝妻〞だってTVは言っているんでしょ、素子だなんて言ってない」
「でも、この家で〝妻〞は、素子さん。だから、旦那を殺したのは素子さん」
「いや……そもそも、旦那、ここにいるでしょ? 一緒にTV見てるでしょ? 生きているでしょ?」
「……あ。ほんとにそうだ」
……ほっと一息。カピズもそれは理解してくれたのか。でも。次の瞬間。
「何で旦那、生きてるの?」
この瞬間、がっくりって感じで、うちの旦那がくずおれました。
「カピズ! あんた達だって旦那が死んだらいいなんて思ってないでしょ?」
「当たり前! 旦那にはずっと生きていて欲しい」
「じゃ、旦那が生きていて何の問題があるの」
「でも、TVの中では、旦那が死んでる」
ううううう。
「だから、TVが言っているのは、嘘なんだってば」
なんて言ってしまい。すると当然、カピズは。
「何でTVが嘘つくの」
「だからそれはフィクションであって、フィクションっていうのは、つくりものであって、本当じゃないのよ」
この辺で、旦那がぬいさんとの会話に参加。そのせいで、事態はもっと紛糾してゆきます。
「その前に! まず、カピズ。俺は生きている。俺は殺されていない」
「って、何で死んだ旦那が会話に参加してくるの! 旦那、死んでいる筈。死んだひとは話しちゃいけないと思う」
「いや、落ち着けカピズ。俺は生きている」
「ううん、死んだ。死んだ筈。さっき、旦那が死んだの、カピバラはTVの中で、みんなで、見た。だから旦那は死んでいる筈。……その、死んだ旦那が何で話してくるの。それが変」
「だから、それはドラマであって、だ、なあ、実際に俺は死んでいないんだ」
「それ、変! 変! すごく変!」
「……あ。判った。ゾンビ」
「……は……ひ?」
「今、カピズにしゃべりかけているのは、旦那のゾンビ!」
「そっか、ゾンビなんだ。ということは、この旦那の脳を壊さないといけない?」
「って、ちょっと待てカピ、何だって俺の脳を」
「それがゾンビを倒す方法だって、カピはみんな知っている!」
「あー、見たあ、ゾンビ映画。TVで。ロメロ監督とかってひとの」
この辺で私も介入。
「ちょっと待て。何でそんな古典名作をあんたが知ってる。あんた、二、三年前にうちにきたカピバラぬいだよね?」
「TVを見たぬいの、代々の申し送り。だから、TVは正しいの」
「そうなの。TVはほんとのことを教えてくれる」
「なのー。なの」
カピバラは複数ですから。それも……数十匹も、いる。これはもう……数の暴力、だよな。
いつの間にか、旦那は〝死んでしまった〞ことになり……今ここでしゃべっているのは旦那のゾンビで、そして、旦那が死んだのなら。
「素子さんは殺人犯だよね」
と、いう話に……なってしまうんだよ……ね。
と。
