大ヒットの陰で乗り越えた試練
おかげさまで「魅せられて」は200万枚を超える大ヒットとなりました。もちろん私にとって大切な歌なのですが、当時を振り返った時に脳裏に浮かぶのは「試練」という言葉。この曲のヒットと引き換えに失った大きなチャンスがあったからです。
実は「魅せられて」を発表する1年前に、のちにエミー賞やゴールデン・グローブ賞を受賞したハリウッド映画『SHOGUN』でヒロインのmariko役を演じることが決まっていました。でもクランクインが遅れてしまい、そうしているうちに「魅せられて」がヒットし、タイミングが重なってしまったのです。でも体は一つしかないので、どちらかを諦めなくてはいけない。どちらを選ぶにしても、どちらかを断腸の思いで手放さなくてはいけない…。
その時、母に「ママだったらどうする?」と相談したのです。すると母は「あなたの問題なのだから自分で考えなさい」と。私が「両方は無理」と言うと「だったら答えは一つよね」と促され、「歌を取るのね?」と確認されて、ようやく心を決めることができたのです。母は「自分で決めたのだから後悔はなし。映画が公開される時に心がブレないくらい歌に集中して、いい結果を出すように努めなさい」とアドバイスしてくれました。確かに後悔しないためにはそれしかないと思った私は、大阪で歌ったら、すぐに沖縄に移動して歌うといった無茶なスケージュールも「やります!」と言って活動を続け、疲労困憊で倒れて救急車で病院へ搬送されること4回。でも大晦日にレコード大賞を獲り、紅白歌合戦に出場できたら報われると信じて頑張り抜いたのです。
結果、両方の目標を叶えることができ、歌を選んでよかったのだと心から思うことができたことが嬉しかった。試練を自力で越えたという達成感が、歌手としてだけではなく、生きていく上での大きな自信になったのを感じます。今でも周囲の人から「もしも『SHOGUN』に出ていたらハリウッド女優になっていたかもしれないね」と言われることがあるけれど、それは誰にもわかりません。確かなことは、自分が決めた道を選んで幸せだと思えたら、それが最高だということだけです。