数字というものは客観的に見えるが、その数字を作るのはあくまで人間である。鈴木氏の出した数字は「客観的」ではあったが、その見せ方は「空気」を読んで演出されていた。そんなまやかしのデータにすがる形で、日米開戦は決定的となった。

そのとき、「総力戦研究所」の出したシミュレーションを思い出した者はいただろうか。もしかしたら、いたかもしれない。しかし、閣僚たちが集まるなか、30代の若手が机上で積み上げた議論を持ち出して「できない」などと言える雰囲気ではなかったのではないか。求められていたのは「開戦できる」という結論と、それを支える数字だけだった。「データより空気」、まさに現代の日本でもよく目にする過ちが、日本最大の悲劇を招く結果となったのである。

ちなみに、このインタビューが行われたのは、鈴木氏が93歳のときである。対する猪瀬氏は当時35歳。鈴木氏の耳が遠いため、質問はすべて画用紙に書かれたが、鈴木氏の記憶力と分析力は目をみはるものがあったという。41年前の記憶をはさんで相対する、戦前生まれと戦後生まれの二人。なんとも印象的なこのインタビューの詳細は、ぜひ本書を読んでほしい。

 

日本の敗戦は過去の話ではない

『昭和16年夏の敗戦』が単行本として発売されたのは1983年のことである。それ以来、文庫化を経ながら、日本的意志決定の欠陥を指摘する名著として、折りにふれ話題になってきた。

今年は新型コロナウイルス流行の衝撃が世界を覆った。このたびの「新版あとがき」で著者は、日本におけるコロナウイルス対策についても、戦前と変わらぬ日本的な意思決定がなされていると指摘している。

75年前の敗戦は、決して過去の話ではない。本当の意味で歴史に学ぶことができなければ、私たちの「敗戦」は終わらないのではないだろうか。


日米開戦前、総力戦研究所の精鋭たちが出した結論は「日本必敗」。それでも開戦に至った過程を描き、日本的組織の構造的欠陥を衝く。
小泉純一郎氏、成毛眞氏、堀江貴文氏など各界の著名人が推薦!