未来は一冊の本を自分で掴み取るところから
メイド喫茶のピンクはヤニでくすんでて夢なんて見ない自由があった
元気そう元気じゃなさそう少なそう 精子として見る国会中継
メイド喫茶という女性らしさ、少女らしさが売りになる商売なのに、そのピンクは疲労と諦めのヤニでくすんでいた。「夢なんて見ない自由」とは、言葉としては簡単でありながら、深い思惑を誘います。また「夢なんて見ない自由」まで知った作者が、今こうして「創作」という夢でできた世界に足を踏み入れたことは大きな旅を見ているようです。
二首目、そんな「夢なんて見ない自由」を知り、男性を相手に接客をした作者は、女性はほぼおらず中年男性が圧倒的に多い(!)国会中継を、精子としてみるユーモアとアイロニーを持ち合わせています。これは冒涜ではありません。玉座に座ろうと道端に寝ようと人は人であるという目の鋭さです。
ブックオフではどんな本も100円です 家族を好きでも好きじゃなくても
家族を好きじゃなくても、ブックオフでは知識が一冊100円で買える。そしてどんな知識に100円を投資して主体がどんな未来を作るかも、家族ではなく主体に与えられている。家族への愛憎を歌いながら、この歌は救いの歌です。100円でブックオフが自己決定権の場所になるのですから。
いやはや、ご体調の悪いお嬢様に、少々口が過ぎました。お疲れではないですか? む? 私もこの時間に寝転びながらでも、積読だった本を読む、と。なんという向上心。あゆ美さまの作品に刺激されたよう。そう、未来は一冊の本を自分で掴み取るところから広がっていくのです。
今回ご紹介した歌人
上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)
1991年静岡県生まれ。歌人・文筆家。Podcast番組『私より先に丁寧に暮らすな』パーソナリティ。2022年に出版した第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』が話題に。その他の著書に、エッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』『会社ではおならをしてはいけません』、ひらりさとの往復書簡エッセイ『友達じゃないかもしれない』などがある。
