ビミョーな「知り合い」

たとえば、ぼくがせっせとベンチプレスをやっていて、「あぁ、もうダメ。死にそう。もう一発も挙がらない」と思った刹那、その出会いは前触れもなく訪れるのです。

「はいはいはい! まだ行けるよぉ。頑張ってぇ、それっ!」

『となりの筋トレ 小説家は見た!ジムの愉快な日々』(著:森沢明夫/飛鳥新社)

と、頭上から威勢のいい声が降ってくるのです。顔すら知らないマッチョな人が、頼んでもいないのに補助をしはじめるわけです。

だ、誰だ、コイツ……。

初対面なのに、なぜ、ため口なんだ……?

なんて考えている余裕はありません。なにしろぼくはもう腕がプルプルするほど追い込まれているのですから。そして、思わず、そのマッチョな人の声に励まされて……。

あ、あ、挙げてやるぅぅぅ!

と、むちゃくちゃ頑張ってしまうのです。そして、その一発を必死になって挙げたあとも「ヨ~シ、あと三発イケるよぉ~!」などと無茶を言われ、ぼくもついその気になってしまいます。

やがて限界を超え、潰れたぼくに、そのマッチョは言います。

「よ~し、お疲れさん! んじゃ、お先に!」

「あ、どうも。ありがとうございました」

そして、ベンチプレス台にポツンと取り残されたぼくには、またひとり名も知らぬビミョーな「知り合い」が出来てしまうのです。

こんな風変わりな出会い、スポーツクラブ以外ではそうそう無いと思うのですが、いかがでしょうか?