「その歳になって寂しなって再婚したなる気持ちはわかるよ。でもな、霧さんやったらもっといい人が見つかるて。せめてもうちょっと若い女にしときや」

「そうそう、憲一の言う通りや。霧。考え直すんや」

 叔父が大きくうなずいた。

「別に若い女を求めてるわけじゃない。落ち着いた、お互いの苦労を理解しあえる関係がいいんです」

「だとしても六十歳はないよ。せめて四、五十くらいで探したほうがええって」

 叔父も憲一も懸命に俺を説得しようとする。

「叔父さん、憲ちゃん。二人の言い分はわかる。世間ではもっともな意見なんだろう。でも、俺は彼女と一緒に暮らしたいんだ。眼を覚ましたら彼女がいる。朝食を一緒に食べたい。コーヒーを一緒に飲みたい。一緒に仕事をしたい。買物に行きたい。同じ食卓を囲んで、夜は一緒に酒を飲んで……同じ空間にいたいんだ。朝から晩まで」

「阿呆か。そんな大学生の同棲みたいなこと言うて。そんなんすぐに飽きて嫌になる」

 叔父が呆れ果てた、という口調で顔を背けた。憲一も困ったような顔で頭を抱えている。それを見て俺は心を決めた。大事にしたくはなかったが、本当のことを話すしかない。

「三年ほど前、心臓の調子が悪くなって倒れたことがある。それからは毎日薬を飲んでます。俺の人生は残り少なくてもうゴールテープが見えてる。時間を無駄にしたくない。残りの時間を彼女と過ごしたいんです」

「そんなに悪いんか?」

 叔父と憲一が顔色を変えた。俺はできるだけなんでもないことのように話した。

「今のところそこまで悪くはない。でも、よくなることはないし、いつなにが起こるかわからない。だから、後悔のないようにしたいんです」

 叔父と憲一が顔を見合わせた。それから、叔父のほうが口を開いた。

「そこまで言うなら仕方ない。蔵を捨てた身でこんなことを言うのはなんやが……白鳥蔵は歴史のある蔵や。日本全国でも個人蔵で薬用酒を造り続けているところはすくない。守り続けていってほしいんや。住み込みの若い者に譲ると言うてるけど、もし、おまえが死んだ後に再婚相手が口出ししたら? 蔵を大事にせえへんかったらどうする? 今は口ではしおらしいことを言っていても、寝たきり老人や引きこもりの娘を抱えていたら余裕がなくなっても仕方ないやろ?」

「蔵の権利は書類を作る準備をしてる。家族で蔵に住み込んでくれて、信用できる若者です。蔵は彼が守ってくれます」

「甘い。それでも揉めるのが相続や」