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余命宣告を受けた主人公が取った行動は

アメリカ東海岸の落ち着いた郊外の町。大学教授のリチャードは、アーティストの妻と10代の娘と瀟洒な家に暮らし、はたから見れば申し分のない人生を送っている。だがある日、ステージIVの肺がんと告知されてしまう。

50代のダンディなリチャードを演じるのは、ジョニー・デップ。海賊役をはじめ、これまでさまざまな扮装で観客を楽しませてきたが、本作では現代に生きる普通の男性を演じていて、実に新鮮だ。

医者は、治療をすれば余命は1年半ぐらいだが、治療しなければ半年だと言う。リチャードは、治療をせず、これまで通りの生活を続けることを選ぶ。その日の夜、家族に病気のことを言い出す前に、娘からはレズビアンであることを告白され、妻からは浮気中であると告げられる。しかも相手はリチャードの上司にあたる学長だ。こうして彼は家族にがんと余命のことを告げる機会を失ってしまう。

余命宣告を受けた主人公を描く映画は数多く作られてきた。23歳の女性が余命2 ヵ月と宣告される『死ぬまでにしたい10のこと』(2003年)、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン主演の『最高の人生の見つけ方』(07年)、ダコタ・ファニング主演の『17歳のエンディングノート』(12年)などなど。いずれも主人公たちは残りの人生でやりたいことをリストアップして実行、その前向きな姿勢に感動させられたものだ。

一方、リチャードは、今まで抑えてきた本音や本能に従うことにしたようで、例えばあるクラスの最初の授業で学生たちにこう提案する。「文学に興味のない者は教室から出て行ってくれ、単位はあげるから」と。学生たちは次々に出て行き、残ったのは10人ほどだ。リチャードは彼らを連れて酒場に行き、一緒に飲む。時には彼らのひとりにマリファナを調達してもらったり、今まで縁がなかったタバコを吸ったり、行きずりの女性と関係を持ったりとやりたい放題。それまで家庭でも職場でも、期待される振る舞いをそつなくこなしてきた自分に対する反発だろうか。

 

何年も前から冷え切っていた妻との関係も、ある晩、ともにウィスキーをあおり、馬鹿笑いをしあうことで、多少の変化を見せる。妻のほうで感じていた心の距離が、少しだけ縮まったのかもしれない。

リチャードの行動すべてには共感できなくても、彼が最後に自問する、「なぜ自分は何に対しても全力であたってこなかったのだろう」という後悔は、観客の心に響くはずだ。そして、ジョニー・デップのさまざまな表情の陰影を楽しみつつ、今後こうしたヒューマンドラマにも多く出演してほしいと願う。

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グッバイ、リチャード!

監督・脚本/ウェイン・ロバーツ
出演/ジョニー・デップ、ローズマリー・デウィット、
ダニー・ヒューストン、ゾーイ・ドゥイッチ
上映時間/1時間31分
アメリカ映画■8月21日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開

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©POLO-EDDY BRIÉRE.

母国バングラデシュでチェスのチャンピオンになった8 歳のファヒムは、父とともにフランスに渡る。一時はホームレスにもなるが、ファヒムはチェスの腕を磨き続け……。実話をもとにした作品で、何よりも父と子が互いに思いあう気持ちの深さに感動する。

8 月14日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

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ファヒム パリが見た奇跡
監督・脚本:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル

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1974年生まれで京都大学在学中に狩猟免許を取った猟師・千松信也を追うドキュメンタリー。山中でワナを仕掛け、獲ったイノシシを調理。でも妻は、「コンビニも近くにある便利な場所ですよ」と屈託なく笑う。気負いなく妻と2人の息子と暮らす千松の落ち着いた言動に魅了される。

8月22日よりユーロスペースほかにて全国順次公開

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僕は猟師になった
督:川原愛子

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