使う人と、使わない人の格差

その仕事が苦手な人ほど底上げされる

生成AIの発達は、所得格差にはどのような影響を与えるだろうか。複数の実証研究は、労働者間の技能の格差を縮小することを示している。つまり、AIは「その仕事が苦手な人を底上げする」効果を持つ。カスタマーサポートの実験では、経験の浅い人の生産性が34%も上がったが、高スキルの人の生産性はそれほど上がらなかった。AIが「優秀な先輩のコツ」を全員に共有してくれるからである。文章作成の実験でも、書くのが苦手な人ほどAIの助けで成績が大きく伸びた。P&G社での実験でもAIは専門家がいなくても専門家がいるのと同等の成果をもたらした。大事なのは、これが「下を引き上げるだけ」ではなく、全体の平均レベルも上げていることである。つまり、格差を縮めながら全体の底上げも実現しているのである。これは、同じ職場内での格差を縮める効果がある。

『思い込みの経済学-AI時代のお金・仕事・社会』(著:大竹文雄/中央公論新社)

格差の二重構造

一方で、職種によってAIの影響度は大きく異なる。AIをうまく活用できる職種とそうでない職種の間で、新たな格差が生まれる可能性がある。プログラマーやライターなど頭脳労働が中心の仕事は大きく影響を受けるが、建設作業や介護など身体を使う仕事への影響は限定的である。

ChatGPTの利用状況を調査したチャタジー氏らの研究は、この問題をさらに具体的に示している(Chatterji et al., 2025)。ChatGPTを仕事で使っている人は、大学卒以上で給料の高い専門職に集中しており、学歴の低い人や肉体労働が中心の人はほとんど使っていない。この「使う人と使わない人の格差(利用格差)」が広がると、「AIが使える仕事の中では格差が縮まるが、AIが使える仕事と使えない仕事の間では格差が広がる」という二重構造が生まれる可能性がある。