制度設計がカギを握る
経済成長論の代表的な研究者であるスタンフォード大学教授のチャールズ・ジョーンズ氏は、「豊かさと死」という印象的なパラドックスを通じて、この問題の極端な形を描いている(Jones, 2024; 2026)。AIがあらゆるモノやサービスを安く作れるようになると、物質的な豊かさは飛躍的に増大する。
しかし同時に、「人間の時間」という根本的に増やせないものの価値が跳ね上がる。医療、教育、介護、芸術など「人間であること」に意味がある分野では、AIでは代替できない人間の時間がますます貴重になるのである。この構造のもとでは、AIを利用する人とそうでない人の格差は、何もしなければどんどん広がっていく。
結局のところ、AIが格差を縮めるか広げるかは、技術そのものでは決まらない。税制や社会保障、教育への投資など、社会の「ルール」をどう設計するかにかかっている。
AIを利用することで同じ職場の中では格差が縮小する傾向があるが、職種間の格差や、そもそもAIを利用するか否かの格差、さらにはAI技術の進化に伴う分配効果の逆転など、複数のリスクが存在する。AIの恩恵をできるだけ多くの人が享受できるような仕組みをつくることが、技術開発と同じくらい重要な課題なのである。
※本稿は、『思い込みの経済学-AI時代のお金・仕事・社会』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『思い込みの経済学-AI時代のお金・仕事・社会』(著:大竹文雄/中央公論新社)
本書はお金、仕事、社会のルールなどとの向き合い方を、経済学の観点から考える。
AIは人間の仕事や判断を代替するのか、それとも補完するのか。
不確実な時代を生き抜く考え方のコツを探る。





