リーダーシップの不可欠な構成要素
どのような能力を持つ人が、こうした貢献を示すのだろうか。実験では、相手の感情や意図を読み取る「社会的知性」、未知の問題に対して論理的に対応する「流動性知能」、複雑な情報を踏まえて適切な選択を下す「経済的意思決定能力」のいずれもが高いリーダーほど、チームへの貢献度が高いという結果が得られた。一方、性別・年齢・学歴といった属性によるリーダーシップ能力の差は見られなかった。優れたリーダーシップは、特定の人口統計学的属性ではなく、磨くことのできる能力に支えられているということである。
ただし、AIを率いる場合と人間を率いる場合とでは、リーダーシップ能力が完全に一致するわけではない。両者の相関係数は0.81であって、1ではない。この差にも意味がある。実験では、リーダーがポジティブな感情(励まし、共感、熱意など)を示した場合、人間チームでは成績が向上したが、AIチームではその効果は確認されなかった。社会的知性とリーダー成績との関連も、人間チームのほうがやや強かった。感情に関わる側面では、人間相手のリーダーシップに固有の要素が残っているということである。
この実験結果は、人間のマネジメントにはAIには不要な、もう一つの重要な要素が存在することを実証的に示している。その要素とは、行動経済学が明らかにした心理的特性の理解と活用である。
例えば、互恵性を理解すれば、リーダーが先に支援を提供することでメンバーの自発的貢献を引き出せる。目標勾配効果を活用すれば、マイルストーンを細かく設定して動機付けを維持できる。フレーミング効果を踏まえれば、同じ指示でもポジティブな表現によってチームの受容度を高められる。AIエージェントには明確な指示を与えれば足りるが、人間のチームにはこれらの心理的特性への理解がリーダーシップの不可欠な構成要素となる。