(写真提供:村上フォトスタジオ)
2024年に熊文学『ともぐい』で直木賞を受賞。北海道や動物を題材とした作品を多数持つ作家の河崎秋子さん。自身が北海道・別海町で生まれ、酪農を営む家で育ったことから、「農家は人間模様が面白い」と語ります。そんな河崎さんが、畑作農家を舞台にオムニバス形式で綴ったのは――。(構成:野本由起)

酪農を営む家で育ち

私は北海道の東端にある別海町(べつかいちょう)で生まれ、酪農を営む家で育ちました。大学卒業後に羊飼いを目指して1年間海外留学をし、その後は家業を手伝いながら、実家の敷地で羊を飼うことに。

2015年に作家としてデビューしましたが、牛と羊の世話、小説の執筆、脳卒中で倒れた父の介護が重なってしまった。心身ともに限界を感じていた19年末、次兄が家業を手伝うために帰郷したので、羊を手放し、十勝へ引っ越して専業作家になったのです。

別海町は湿地が多く、稲作も畑作も難しい気候風土でしたが、十勝は湿度が低く、ジャガイモやとうきびなどを育てるのに適しています。地域の新聞を読んでいると、同じ農家でも酪農と畑作では天候との向き合い方、害虫対策などが違うとわかり、実に興味深い。そこで、畑作農家を扱った小説を書いてみようと思い立ちました。

畑作でも酪農でも、農家は人間模様が面白いんです。ご近所さんと畑の土壌も同じなら、農作物も同じ。普段から町内会でゴミ拾いをしたり、誰かが入院したら農作業を手伝ったりと、協力しあって暮らしています。

ですが、隣の家が畑の草取りをまめにしているなら「うちもやらなきゃ」とプレッシャーになるし、隣人が朝5時に畑に出ていたなら、自分は4時45分に起きて農作業を始めないと落ち着かないそう。

監視されているわけではないけれど、畑が地続きなので、隣家の目や作業状況が気になってしまうのです。