多様な農家のありようを描く
農業には必ず人間が関わってくるけれど、どんなに親しいご近所さんや家族でも、価値観は異なり、軋轢(あつれき)も生まれる。そこで隣の畑が青々と見えたり、または枯れて見えたりするさまを、オムニバス形式で書いてみることにしたのです。
働きざかりの農園主、その妻、母、娘、隣家の婿、大農場の社長夫人、東京から移住してきたカフェ店主という7人の視点で、それぞれが悩みや葛藤を抱えながらも、自分なりの生き方を模索する姿を綴りました。
農家では、女性も大きな労働力です。農作業はもちろん、お昼前にサイレンが鳴れば家に帰って昼ご飯のしたくをする。家事もご近所づきあいもこなすので、皆さん総じてパワフル。ただし、隣近所の目は気になるという繊細な部分もあって。
作中で「犬を飼いたい」と申し出たお嫁さんが義母から止められるエピソードを書きましたが、嫁が畑仕事もせずに悠々と犬の散歩をさせていたら、ご近所から見とがめられる……と思ってしまうのです。古めかしく思うかもしれませんが、こうした風潮は今も残っています。
ただし、本作にも記しましたが、近年では農家における女性の立場が徐々に変化していて。そのまま家業を継ぐだけでなく、法人化して従業員を雇い、経営側に回る女性もいれば、嫁ぎ先の農作業に従事せず、ほかの職業に就く人もいます。
家ごとにさまざまなやり方が生まれていますが、この先、それぞれの家族に適した形がさらに増えていくといいな、という希望も込め、多様な農家のありようを描きました。

