家来の蝶々の役
本物の女優が、梅村蓉子。この人は大変な人気女優だった。綺麗な洋服を着た梅村蓉子がお姫様役、わたしたちは家来の蝶々の役なの。
蚊張みたいな、薄く透ける白いスカートなのよ、家来の衣裳は。
《私は、昔の田舎の娘である私は、西洋風のズロースなぞ、夢にも知りませんし、ましてそんなものを穿いたりしてはいないのです。(中略)私はお腰を巻いたままのその上から、薄い蝶々の衣裳を被りました。(中略)
好いお天気で、陽が一ぱい、原っぱの草の中まで射しています。私はみんなの後の方に小さくなっていました。草の中にしゃがんでいると、まあ、蟻がチクリと私のお尻を刺しました。》
このチクリ、が可笑しいでしょう。
その日は八十銭を貰って帰ってきたけど、次の日曜日にはもう行かずじまい。だから女優にはなり損っちゃいました。
わたしが女優になっていたら、さぁ、どうだったでしょうねぇ。偉い人になれたかしら。
※本稿は、『宇野千代 ちょっと自伝』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
『宇野千代 ちょっと自伝』(著:宇野千代、文:三宅菊子/マガジンハウス)
NHK朝ドラ『ブラッサム』主人公のモデル、宇野千代
本人の語り下ろしと、70点を超える貴重写真が1冊になった!
宇野千代のしなやかでまっすぐな「生きが好い人生」をお楽しみください。




