夏はかえって熱燗を

夏の祖父の飲みものは「柳蔭」である。江戸では「本直し」というたと、江戸時代の本にある。みりんと焼酎半々に合せたものを冷やして飲む。牧村史陽氏の「大阪方言事典」をみると「戦時中の酒類統制ですべてが東京式に統一せられ、柳蔭の名はついに消滅してしまった」とある。

父は夏でも燗をした日本酒であったようだが、「酒は冷とうして飲んだらあかん」といい、それぞれ自分の好みをゆずらなかったようである。それでもみな大阪者なので、夏の酒の肴は、ハモの湯引きに梅肉酢、タコ、間引き菜とてんぷら(これはきくらげの入った白天というもの)のたき合せ。

『食べるたのしみ』(著:田辺聖子/中央公論新社)

そんなものであったろうか。

ところで私も、夏はかえって熱燗が涼しくていいのだから、そこは父に似ている。

もっとも、いまどきは、その前にビールを飲んだりして、まず口中の熱を払うけれども。