昔のことをすっかり忘れてしまうというのは、老人の生活にとって必要なこと
昔のことをすっかり忘れてしまうと言うのは、老人の生活にとって、必要なことかも知れない。
ときどき、昔のことを思い出して書きたいと思うことがあるが、まるで忘れてしまっているので、呆れることがある。
中でも、思い出しては困るようなことは、大抵忘れている。あの人に対して、悪いことをしたな、と確かにそう思いそうなことまで、すっかり忘れているのだから、好(い)い気なものである。
私がこんなに安穏な気持ちで生きているのは、ああすべきであったと思うことでも、じきにそのことを忘れるからである。