ほどなくして香ばしい香りが店いっぱいに広がる。敏子さんが「はい、お待ちどおさま」と、焼きたての団子を手渡すと、女性は思わず顔をほころばせた。
「おばあちゃんに会えてよかった。これからも長生きしてくださいね」
「ありがとう」、敏子さんはそう言って、差し出された手を両手で包み込むように握り返す。
その間にも人が次々と訪れ、店内はあっという間に10人ほどのお客さんでいっぱいになった。夫婦で訪れた男性は、「テレビで見た『不足を数えず感謝に生きる』という言葉が忘れられなくて」と話す。
その言葉は、敏子さんが長年書きためてきた短歌や人生訓のひとつだった。ノートに綴るほか、以前は店内のあちこちに飾っていたというが、今は一冊のファイルに大切に収められている。
見せてもらうと、「たった一言で人の心を傷つけ たった一言で人の心を暖める」など人生の実感がにじむ言葉や、96歳のときに書いたという「蝉時雨 今年は聞けぬ 猛暑かな」の俳句が、美しい筆文字で書かれていた。習字も独学だというから驚く。
男性客の妻は、敏子さんと握手を終えると、「元気をもらいました」と笑顔を見せ、夫は「写真を撮ってもらえばよかったなあ」と照れ笑いを浮かべた。団子を買いに来た人たちは、敏子さんの接客を受け、帰るころにはみな笑顔になっている。