苦労してきたけれど今が一番幸せ
客足が落ち着いた午後4時ごろ、敏子さんは仕込みをするため作業場へ入った。団子の材料は、米粉と水だけ。機械で混ぜ合わせた生地を、敏子さんと昭美さんが体重をかけながら力強くこねていく。
「こうすると、もちもちになるんですよ」。そう言いながら、生地を細長くのばすと、年季の入った木製の「球断器(きゅうだんき)」に挟み、コロコロと転がす。すると、生地はあっという間にいくつもの丸い団子へと姿を変えた。
丸くした団子を串に刺して蒸し、注文が入るたびに焼き、秘伝のタレを丁寧にまとわせて仕上げる。一つひとつは単純な作業だが、そのすべてが手仕事。見ているだけで腕や腰が疲れそうになる重労働だ。それでも敏子さんの手は、97歳とは思えないほど軽やかに動き続ける。
筆者も、焼きたてのみたらし団子をいただいた。甘すぎず、ほどよいコクのあるタレの風味が口いっぱいに広がる。団子は驚くほどもちもちとしていて、歯を立てると、ふわりとほどけるような軽やかな食感だ。
「本当はね、少し冷めたほうがもっともちもちして、おいしいんですよ」と、敏子さんはいたずらっぽく笑う。
そんな笑顔の裏には、決して平坦ではない人生があった。
「昔は睡眠時間が3時間くらいしかなかったからね。本当によく働いたよ」
夫も義父も亡くしたあと、ひとりで店を守りながらひとり息子を育て、気の強い義母の介護にも追われた。若いころから少しずつ定期預金を積み立て、1989年には念願だった現在の店舗兼住宅を建てた。
「苦労もしたけどね……。でも、今が一番幸せですよ」
そう言って穏やかに笑う敏子さんは、「人と会うことが元気の源」だと話す。