撮影予定がある、それが明日への力
重松 「好きでやってるんだろう」という言われ方もしますが。
行定 たしかにその通りです。さっきの話の主演女優は、プロデューサーの「今度、絶対にまたやるから」の言葉に、「それを信じて、バイトします」と嬉しそうに答えたそうです。生活ができなくなることよりも、舞台に立つ、その場所を失ったことのほうがつらいんですよ。
重松 よって立つものがなくなる。
小泉 役者さんというのは有名無名にかかわらず、次の出演が決まっている、撮影予定がある、それが明日への力。だから、プロデューサーとしてできるのは、次の約束なんですね。
重松 お話をうかがっていて、ベンヤミンという歴史学者の言葉が浮かびました。「暗闇の中を歩くときに支えになるものは橋でも翼でもなく、友の足音である」。見えないけれど、一緒に歩いている仲間がいると思えば、それがいちばんの力になるのですね。
小泉 今、世界中が同じ状況にありますから、違う国の人たちともそういうつながりが生まれやすいかもしれません。
(2020年7月30日収録)
※この座談会の完全版は、2020年9月23日発売の『婦人公論』10月13日号に『婦人公論井戸端会議2020」として掲載します
重松清さんが司会を務める「婦人公論井戸端会議2020」は毎月第4火曜日発売号に掲載
小泉今日子
女優・歌手・株式会社 明後日 代表取締役
1966年神奈川県生まれ。82年歌手デビュー。歌手、女優として舞台や映画、テレビドラマ、CMなど幅広く活躍。2015年に株式会社明後日を創立、代表取締役を務める。プロデュース・主演を務める舞台『ピエタ』が、東京・本多劇場(7/27~8/6)、愛知(8/9、10)、富山(8/19、20)、岐阜(8/26)で上演予定。
行定勲
映画監督
1968年熊本県生まれ。2000年劇場公開監督デビュー。『GO』(01年)などヒット作数。
19年制作『劇場』がAmazon プライム・ビデオでの配信と映画館で同時公開(現在は配信のみ)。最新作『窮鼠はチーズの夢を見る』が公開中
重松清
作家、早稲田大学文化構想学部教授
1963年岡山県生まれ。99年『ナイフ』で坪田譲治文学賞、同年『エイジ』で山本周五郎賞、2001年『ビタミンF』で直木賞、10年『十字架』で吉川英治文学賞、14年『ゼツメツ少年』で毎日出版文化賞を受賞。最新刊は『ひこばえ』。20年7月に『ステップ』が映画化(飯塚健監督・山田孝之主演)。