私たちは「動物」。動かないと不調に
近年、筋トレは一大ブームを迎えています。私がメニュー開発と指導を担当した『みんなで筋肉体操』という番組も人気を集めましたが、筋トレは一部のスポーツマンだけのもの、というかつてのイメージはもはやなくなっているのではないでしょうか。
私は小学生の頃から筋肉を鍛えることに興味がありました。社会人になって手にしたボディビルディングの雑誌で、筋トレを生理学的に解説する記事に衝撃を受けて。大学院に入り直して筋肉の研究を始めました。
当初は自分の筋肉をいかに鍛えるかが関心事でしたが、無理なトレーニングで肩や肘を痛めた反省もあり、近年は年齢を重ねて関節が弱くなっても、軽めの負荷で高い効果を上げられる「スロートレーニング」などの研究を進めています。
運動と健康に関わるわれわれ運動生理学者は、コロナ禍が大変危機的な状況をもたらしたと感じています。以前からフィットネスクラブに通ったり、定期的にスポーツを楽しんだりしていた人が、思うように身体が動かせないことは、もちろん大きな不安です。
しかしそれ以上に心配なのが、運動習慣のない人が「ステイホーム」を守り、より一層運動不足に陥ることです。意識的に運動をしていない人は、日常生活が日々の活動量の大部分を占めますから、その分、筋肉や関節など運動器の機能低下に与える影響が大きい。
なにげない外出で簡単に稼げていた3000歩も、「ウォーキング」となると30分は歩かなければなりません。運動習慣のない人には、大きな壁になるはずです。
最近、肩こりや腰痛がひどくなっていませんか。家の中のわずかな段差でつまずいたり、久々の外出で息が切れたりすることは? 私たち「動物」は文字通り、動く生き物。しっかり動いてこそ元気な状態を保てますし、動かなければさまざまな不調を抱えます。
この長寿時代、多くの方が関心を寄せるのは高齢になってからのQOL(生活の質)でしょう。高齢者が自立した生活を送れなくなる原因の多くは、虚弱や転倒、関節疾患。それらのリスクは運動不足で筋力が落ちることで高まります。
女性にとっては、「見た目年齢」も重要ですよね(笑)。たとえばお尻の筋肉は加齢で落ちやすい代表的な部位ですが、筋肉を失うと桃のような丸みを保てず、四角く垂れた「ピーマン形」に。
さらに筋肉が落ちると、最終的には両頬がそげ落ちた「ムンクの叫び」へと変わっていきます。ムンクでは見た目も残念ですが、お尻は体重を支える筋肉でもありますから、自力で立ち上がるのが困難になり、颯爽と歩けなくなってしまう。
筋肉量は30代をピークに落ち始め、50~60代でスピードを増して減少します。高齢になったときに「筋肉貯金」が不足しないよう、若いうちから鍛えることが大切です。いくつになっても諦めることはありません。筋肉は何歳でも鍛えられ、増やすことができます。健康で、快適に動く身体はなにより気持ちがいいものです。そのために役立つメニューをご紹介しましょう。