俵屋吉富 烏丸店「着せ綿」

九月九日の菊の節句に
宮中で行われた風習を意匠に

九月九日は重陽の節句。宮中行事に起源をもつ五節句の一つで、一桁の陽数(奇数)の最大数である九が重なることから「重陽」と称されます。

三月三日の上巳には桃花、五月五日の端午には菖蒲など、それぞれの節句に象徴的な植物があり、重陽では菊がその役を果たします。古来、菊花は不老長寿をもたらす薬と考えられており、花びらを浮かべた酒を飲むこともこの日の習わしでした。

京菓子の意匠には、宮中の行事を題材にした菓子がいくつもありますが、重陽の節句の「着せ綿(きせわた)」もその一つ。着せ綿とは重陽の前日に菊の花に綿を被せておき、露を集め、その綿で身を清める行事のこと。

俵屋吉富の着せ綿は、こなし生地で菊花をかたどり、白いつくね芋のそぼろをふんわりのせて綿を表現。そっと楊枝を入れると、内側からこし餡がのぞきます。

なんとも風雅で縁起の良い、この季節ならではの菓子です。