ちゃぶ台を庭に放り出し、机を新調して
もし夫が先に逝ってくれたら、やっと私の人生がきたよ~、と空に向かって大声を出してしまうだろう。お金はたんまりなくっても、私はもう自由!! どこへでも一人で行くことができるんだ。
まずしたいのは墓参り。両親、兄たち、なんといっても息子の墓前に報告する。おまえの父ちゃんはやっと逝った。これから私のために残りの人生を楽しむよ、と。その後私は夫の物を全部、ゴミ袋にポンポンと放り込んで固く紐でくくるのだ。イヤな思い出しか残っていない夫の物なんてすぐ粗大ゴミに出そう。こんなの引き取れないよと業者の人が言ったなら、お金をたんと出してでも引き取っていただく。
ほーら、この狭い部屋は私のすてきな部屋になる。灰色にくすんだカーテンだって、真っ白なレースに取り換えて。いくら私がカーテンを替えようと言っても、そんな金があるならオレによこせと言った夫。でももう邪魔されない。
並んで食事したちゃぶ台も思い切り庭に投げ捨て、そこへ花の鉢を置く。ほしかった勉強机は新しいのを買おう。子どもの頃から、私の机はきょうだいのお古だったから。今の狭い六畳の部屋でかまわないが、机だけは手に入れたい。いつもちゃぶ台で手紙を書いていると、夫は「ナニさ、文豪ぶって」と恥ずかしくなる暴言を吐くんだもの。
友人たちへの手紙には、「やっとこ一人になれました。これからはいつでも会えます。少しくらい帰りが遅くなっても誰も叱る人なんていません。私の部屋にも遊びに来てくださいね」と書き、ポストに何十通も投函する。
落ち着いたらお茶会を催すつもりだ。気取ってお紅茶と上等なクッキーを用意して。夫への長年の恨みを話して……いいえ、そんな話題、素晴らしいお茶会には似合いません。私は小花模様のロングドレスを着て、みんなにこれからの私の夢を語るのです。集まってくれた友人や妹に「よかったね。これからは貴女の好きなだけ本を読み、手紙を書き、旅行をしてね」と言われるのだ。