陸軍中佐待遇の古関は、4月中旬に羽田から重爆撃機でビルマを目指し、南方慰問団派遣以来、約一年半ぶりにラングーンに降り立った。ミンガラドンの飛行場から派遣軍司令部に向かうと、参謀からインパール作戦の状況説明を受けた。羽田を出発する前の話とは違って、「インパール陥落は、まだまだです。しばらくラングーンで休養していてください」とのことであった。

火野と向井は状況視察のため先発したが、古関はインパールが陥落するまでラングーンに留まった。滞在中には、火野が出発前に書いた「ビルマ派遣軍の歌」を作曲し、軍楽隊とともに各部隊を慰問して回り、各部隊から頼まれれば部隊歌も作曲した。この活動中に古関はデング熱に罹って倒れている。

古関の病状が回復する頃には、火野と向井が戻ってきた。そして両者から過酷な戦場の模様を聞き愕然とする。この時の話を思い返して、古関は「泥濘と雨と悪疫。生命を保つさえ難しい兵隊に、進撃命令、進攻作戦の地図上の参謀。すべては無謀、無駄な作戦であった」、「まことに胸が痛む思いだった」という。大本営は、7月4日にインパールからの撤退命令を出した。

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