「伊達男の国、イタリア」

私の夫はどことなく北方系の容姿なので、イタリア国内でも外国人と思われることが多い。おまけにシャツはパンツ・インだし、革靴を裸足で履くなんていうおしゃれな発想は皆無だ。イタリア男といえば、年齢を重ねても色気を纏った、日本で活躍する某イタリア人タレントのイメージを思い浮かべがちだが、それを迷惑と捉えている夫のようなイタリア人男性は結構いる。そもそも現代のイタリアでは、かつてのように街中を闊歩する女性に口笛を吹いたり、「ベッラ(美人)!」などと冷やかしの声を掛けたりする男たちの姿を見かけなくなった。女性を崇拝するイタリア人男性のイメージを偏見だと思われても仕方がない。

今年の春先、新型コロナ騒ぎの直前に仕事で滞在していたミラノの街中で、モデルの撮影現場を見かけたことがあった。わずかな見物人はいても、忙しいミラノの人たちは目もくれずその前を足早に通り過ぎていく。若い男性も素通りで立ち止まろうともしない。

ところが、そこに通りかかった平均年齢60代から70代くらいの身なりの良い高齢イタリア男性集団は、セクシーなモデル女性を目に留めるなり、皆一斉に歓喜に満ちた大人気ない表情を浮かべ、楽しそうにはしゃいでいる。ああ、これが世界にそのイメージを定着させた、かつてのイタリア男たちの仕草じゃないかと思った瞬間、ほっと心がなごんだ。自分の目で事実が確認できれば、それはもう先入観とはいえない。

とはいえ、こんな光景を見られるのもあと数十年くらいで、あの高齢イタリア男たちの笑顔も偏見や先入観としか捉えられなくなる日がくるかもしれない。そう思うと、ちょっとばかり寂しくなった。