「非常時には《不要不急》のものとして追いやられがちなジャンルですが、エンターテインメントが消えた世界ほど、味気なく、寂しいものはないと思っています。」(撮影:木村直軌)
〈今夜の「FNS歌謡祭」に登場!〉数多くのミュージカル作品に主演し、《プリンス》と呼ばれる山崎育三郎さん。出演中のNHK連続テレビ小説『エール』でのある出会いをきっかけに、歌が生まれて――(撮影=木村直軌 構成=上田恵子)

これまでの日々が特別だったと気づいて

コロナ禍で、たくさんのことが止まってしまった今年。僕の場合、大きかったのはミュージカル『エリザベート』の上演中止です。トート役を演じる予定だったのですが、最終稽古が終わり、オーケストラと合わせて最後の通し稽古を済ませた直後に、中止を告げられました。心のどこかで覚悟していたものの、やっぱりショックは大きくて。

東日本大震災の時にも感じたことですが、舞台に立ち、たくさんの観客の前でパフォーマンスできるのは当たり前のことではない。僕らはこれまで、特別で、奇跡のような日々を送っていたのだと、あらためて実感しました。

2ヵ月ものあいだ予定がないというのは、仕事をさせていただくようになって初めてのこと。そのおかげでと言ったらおかしいですが、家族とゆっくり過ごす時間を持てたのは幸いでした。「ここまでちゃんと家族と向き合ったことはなかったなあ」としみじみ思ったくらい、ずっと一緒にいて……。あのステイホーム期間は、僕にとって本当に貴重な、愛おしい時間になりました。

その一方で、常に頭にあったのが、「エンターテインメントの流れを止めてはいけない」という思いです。僕は子どもの頃にミュージカルに出会ったことで人生が変わりましたし、これまで何度も音楽に助けられてきた。それこそ、この世から音楽がなくなったら生きていけないくらい、僕にとって歌うこと、表現することは大切なもの。

非常時には《不要不急》のものとして追いやられがちなジャンルですが、エンターテインメントが消えた世界ほど、味気なく、寂しいものはないと思っています。

4月にミュージカル仲間とリモートで「民衆の歌」を歌い、YouTubeで公開したのも、そんな気持ちからでした。「民衆の歌」は『レ・ミゼラブル』で歌われる、政府軍に立ち向かうパリ市民の歌です。コロナ禍の心境と重なるのではと、役者仲間の上山竜治が発起人として企画を立ち上げました。

参加してくださった36名の中には、歌舞伎やお笑いなど、ミュージカル界以外の方もいます。所属事務所もバラバラですが、皆さん「こういう時ですから」と垣根を越えて集まってくれました。動画は大反響をいただいて、嬉しかったですね。あの時期だからこそ実現した、素晴らしい企画だったと思います。