初めて曲を聴いたときは、戦争で命を落とした藤堂先生と、久志との関係性を重ねて涙してしまいました。本当に美しく、優しいバラードです。コロナ禍で疲れた心に染みる素敵な歌だと思いますので、皆さんに聴いていただけたら嬉しいです。

ミュージカル俳優が、ミュージカルの楽曲が入ったアルバムやカバー曲を出すことはよくありますが、ひとりのアーティストとして歌を届けることは実はほとんどありません。そういう意味でも、このシングルは自分にとって大きなチャレンジになりました。

カップリング楽曲は、高校野球のテーマソングとしてお馴染みの「栄冠は君に輝く」。こちらは『エール』のモデルになった古関裕而氏の母校・福島商業高校吹奏楽部の生徒さんと、リモート録音でコラボをしています。コーラスは福島大学附属小学校合唱部の生徒さんと、直太朗さんが担当してくださいました。

僕の家族は、僕を含む4人兄弟全員が大の野球好きで、なかでも弟は、香川の名門校で甲子園を目指していた元高校球児です。なので、ドラマの中で「栄冠は君に輝く」を歌うことについては、最初から並々ならぬ思いがありました。しかも歌唱した場所は、甲子園球場(ドラマの設定上)のグラウンドのど真ん中。無人の観客席を見ながらアカペラで歌い上げたときは、全身に鳥肌が立ちました。

今年、甲子園を目指す機会を奪われた高校球児。練習の成果を披露できなかった吹奏楽部の生徒たち。全公演中止になってしまったミュージカルの舞台。そしてコロナ禍で頑張っている、すべての人たち――。さまざまなことを思い浮かべながら、日本中に心からのエールを送るべく、全身全霊で歌わせていただきました。

戦時歌謡を歌っていた久志は、終戦後、周囲からの批判の目に晒されます。そんな彼を立ち直らせたのが、この「栄冠は君に輝く」です。音楽によって傷つき、音楽によって救われた久志。ボロボロになった彼を演じるため、体重を5キロ落として臨みました。あのとき、球場のグラウンドから見た景色を僕は一生忘れないと思います。