昔ながらの料理で体調もよくなって
私の生まれ育った信州は、冬が長く厳しい土地です。年の半分ほどしか野菜がとれないため、5月から10月くらいにかけて収穫した野菜をいかに保存し、美味しく食べるかという「知恵」が育まれてきました。その代表といえるのが、漬け物です。私は小さい時から母や祖母、叔母たちが作るさまざまな漬け物に親しんで育ちました。
とはいえ若い頃は、母の作る茶色っぽい料理が大嫌いで。その想いが届いたのか(笑)、転勤の多い新聞記者の夫と結婚したことで地元を離れ、いわゆる現代的な食生活を送るようになりました。でも、40代の頃から顔中がシミだらけになってしまって……。マッサージをしても効果はナシ、どこか内臓が悪いのだろうか、婦人科系の不調だろうかとあちこち病院も回りましたが、原因はわかりませんでした。
そんな時、不思議と母の作っていた味がふと懐かしくなって。幼い頃に見ていたやり方を思い出すうち、食卓に漬け物や、味噌・醬油・麴など発酵食品を使った昔ながらの料理が増えていきました。するとだんだんと体調もよくなって、いつの間にかシミが消えていることに気づいたのです。
食事の力、大切さを実感した私は、故郷の食生活、特に発酵食について自分なりに勉強を始め、すっかりその魅力にはまってしまいました。30年ほど前、転勤の落ち着いた夫と信州に戻って家を建て、そこで料理教室を開いたり、身近な食材を使った発酵食の楽しみ方をテレビや本でお伝えするようになったほどです。
漬け物をはじめとする植物性の発酵食品は、腸の長い日本人の健康に、とても有効であることが近年の研究からもわかってきました。
塩漬けやぬか漬けは塩の力で発酵が進み、乳酸菌が増えて酸っぱくなる。乳酸菌は腸内環境を整え、さまざまな病気を防ぐといわれています。食品を味噌漬けや醬油漬け、粕漬けにすると、そこに含まれる麴菌の栄養も体にとり入れることができるのです。
ヨーグルトやチーズに含まれる動物性乳酸菌に比べ、漬け物に含まれる植物性乳酸菌は生きて腸まで届き、増殖する強さがあると言われています。さらに、野菜に多く含まれる食物繊維は消化吸収がゆっくりなので、乳酸菌を長く腸にとどめる役割も果たしてくれるのです。
最近はスーパーやコンビニでも漬け物は手軽に買えますが、その多くは賞味期限を延ばすために発酵を止めてあるので、実は生きた乳酸菌をとることはできません。健康のために漬け物を食べるなら、ぜひ手作りをしていただきたいのです。
漬け物は作るのが面倒くさい、と敬遠する方もいらっしゃるかもしれません。けれど私のレシピは、「こうしたらもっと手軽に、楽しく、美味しくできるんじゃないかしら?」と考えながら進化させてきたもの。たとえば3ページでご紹介したのは、《ぬか袋》を使った「白菜の簡単ぬか漬け」です。失敗することが多いぬか床を用意しなくても、簡単にぬか漬けが作れるんですよ。