『たちどまって考える』(ヤマザキマリ・著 中央公論新社)より  

漫画を描く合間を縫って、常に国内外を旅してきた漫画家で文筆家・ヤマザキマリ氏。1年のうち半分を東京で、残りを夫の実家であるイタリアで過ごしてきましたが、コロナ禍の今年は日本にとどまり、イタリアの家族に会えないまま1年以上が過ぎました。先が見えずやきもきする気持ちを感じつつも、ヤマザキさんはこの状況下だからこそできることがあると言います。

※本稿は『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋、再編成したものです。

たちどまったタイミングだからこそ

2020年の初頭以来、新型コロナウイルス関連のニュースに触れる日々がすっかり私たちの日常になりましたが、この記事を執筆している2020年の12月末現在、日本全国での感染者は20万人を超え、イギリスで見つかった変異型のウイルスに感染した日本への渡航者が見つかるなど、気を緩めることは全く許されません。年末年始をどう過ごすべきか、家族と集まるべきか諦めるべきか、といった内容が報道されていますが、私はイタリアの家族と会えないまま、日本での滞在が1年を超えてしまいました。これほど長く日本にいたのは、実に20年ぶりのことです。

夫は日本での在留資格があるわけではないのでこちらへ渡航できず、イタリアも日本人を含むいくつかの国々に主に観光用途で入国を許可していますが、イタリアの家族からは「ワクチンを接種するまでは渡航を早まるな」と止められています。

「ワクチンは一体いつ接種できるのか」「接種したところで本当に効果はあるのか」などと、やきもきしていても仕方がありません。普段は忙(せわ)しなく動き回り、環境を変えたり価値観の違う世界を行き来することでメンタルのエネルギーを得ていた私ですが、不意にたちどまることを強いられたこのタイミングだからこそ得られたこと、そしてできることがあるということにも気がついた1年でした。