伊藤 普通ね、88歳くらいの男の高齢者って、たいへん失礼ですけど、感じ悪い人が多いじゃないですか。不機嫌で、むっつりして。
谷川 あ、そうなの?
伊藤 死んだイギリス人の夫なんか、ずーっと不機嫌でしたよ。でも、谷川さんはけっこう誰とでもしゃべるでしょう。
谷川 おれ、愛想がいいから。人の機嫌を損ねたくないから、一所懸命お相手しちゃうわけですよ。
伊藤 昔からそうですよね。そんなふうに生きるコツはありますか?
谷川 コツというか、本能でしょうね。ぼくね、ひとりが一番ホッとできて、他人がいると気をつかっちゃって落ち着かないことを自覚してるの。人間が群生動物であるっていうことを、ちゃんと把握していないとダメだって思ってる。
伊藤 あー、いいですねえ。
谷川 だから他人がいると一所懸命、群生動物しちゃうわけ。
伊藤 でもそれ、通常の男がずっと生きてきて、60歳、70歳になってさあやろうっていっても、できることじゃないでしょ。
谷川 ぼくはティーンエイジャーのころに仕事を始めてから、ずーっとそうしてきたんだから。
人間に対しては初めからデタッチメント
伊藤 誰かに声を荒らげたってことはないですか?
谷川 仕事で2度ほど怒鳴ったことは覚えてるね。50代ぐらいのときじゃなかったかな。
伊藤 えっ! へぇー、見てみたかった。谷川さんにはそういう印象ってまるでないですよ。
谷川 だからおれ、怒る能力がないんですよ。
伊藤 あと愛する能力もないんでしょ?(笑)
谷川 それはちょっと、異論を呈したくなるね(笑)。まあ、このごろずっと、デタッチメントって言ってるんだけどね。アタッチメントは「こだわる」「くっついてくる」ことで、その反対がデタッチメント。「何かから距離をおく」ってことなんですね。
伊藤 なるほど、いい概念ですね。デタッチメントですか。
谷川 たぶん、初めからデタッチメントなの、人間に対しては。